2016年04月12日

ながら家路に着く



始めぱらぱらと降り始めた雨は、やがてドシャバシャと、本格的な夕立に変わった。
連日の真夏のような気候に油断して傘を持っていなかった人々が、一斉に小走りで商店街を駆け出し始める。 雨足は次第に強くなり、周囲の景色が白く煙り始めた。

小さな折り畳み傘では雨を防ぎきることが出来ず、僕は大勢の人に混じって、シャッターを下ろした商店の軒先に逃げ込んだ服務式住宅
僕の隣で、大して不満でもなさそうに、突然の夕立に文句を言う二人組のおばあさん。 ハンカチで服を拭くスーツ姿の女性。 自転車に乗ったまま空を見上げる少女。

僕はとりあえず煙草に火をつけて、雨の様子をうかがった。 ついさっきまで賑わっていた商店街も、途端に人通りが絶えた。 無人の商店街を快適そうに車が走り抜ける行銷策略
ぼおっと周囲を見ていると、傘を持っていない人が多い中で、濃い化粧をした女性は必ず傘を持っていることに気付く。 なるほど、と思う。

雨はしばらく止みそうにもないので、10メートルほど先のスーパーに走り込む。 野菜売り場のひんやりとした空気が、濡れた体に染み込む。 鮮魚コーナーで、刺身を見る。 迷った末に、生カツオにする。 ビールも買う。

店を出ても、雨は相変わらずで、僕は紙袋に入った本が濡れないように注意し。 雨が坂を川のように流れる。 絵に描いたような、典型的で圧倒的で妥協の無い夕立の中を歩いて、少し嬉しくなる失眠。 今日は、一年に一度の、「夕立激しく暴れ狂い放題の日」なのだ。  


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2016年04月12日

味は思ったほ



「新品の屋台」という感じの店構えが、いかにも不味そうな雰囲気を醸し出していたので、立ち寄ろうとは思わなかったのだが、ふと店主の顔を見てみると、父親にそっくりだったので、純粋にびっくりした。
実の息子が言うのだから、本当にそっくりなのだ。 やや垂れ下がった眉毛や、髪の質・量・髪型、まぶたの少し余った感じ、頬の疲れ具合。 もしかしたら僕と血が繋がっているのかも知れない。と思わせるほど似ていた。

僕は来た道を5メートルほど引き返して屋台の前に立った。

醤油ラーメンを注文して、店主が作るのをじっと見ていたのだが、どこかいい加減で、雑な動きだった。 見るからにしてあまり美味そうではない。 しかも、ラーメンが出来上がって600円を受け取ると、セブンスターをくわえて、どこかに行ってしまった。

僕は少し気後れしながら無人の屋台でラーメンをすすった。 時折後ろを通り過ぎて行く人の視線が気になってしょうがなかった。 父親の顔に似ているからと信用した自分を恨んだ。
しかし、ど悪くなかった。 正統派の(極普通の)ラーメンで、ダシは上品な(やや薄い)味がした。 謎の白い調味料がやたらめったら入っていないのが救いだった。 醤油トンコツ系の店に多い、あの舌がピリピリする味には、我慢できないのだ。

どこからか店主が帰ってきて、僕が食べるのを何となく見ながら暇な様子で立っていた。 僕が店は忙しいのか尋ねると、「まぁ、この場所はまだ日が浅いからねぇ」という返事が返って来た。 しかし常連の客は何人かいるらしく、僕がラーメンを食べている間にも、クラクションを鳴らして店主と視線を交わして行くドライバーがいた。 店主が言うには、そのドライバーはどこかの社長で、車が大好きらしく、家に何億もするレーシングカーがあるらしい。 ラーメン屋の店主はその人の家に誘われて実際に見た、と言っていた。

もしかしたら虚言癖があるのかもしれない。と思いながら聞いていたのだが、何となく憎めないオヤジだった。

結局、店主の名前も出身も血液型も訊けずに、僕はその店を後にした。 もうその屋台に立ち寄ることはないかもしれない。 そう思うと少し惜しい気もする。 やっぱりもう一度立ち寄って名前だけでも訊くかもしれない。 訊かないかもしれない。  


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